2017年9月29日

「楽天・バンガード・ファンド」シリーズのポテンシャル



楽天投信投資顧問とバンガード・インベストメンツ・ジャパンがタッグを組み、バンガード・グループが運用するETFを主な投資対象とするインデックス型投資信託「楽天・バンガード・ファンド」を創設すると発表しました。

楽天投信投資顧問株式会社とバンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社、『楽天・バンガード・ファンド』の創設を発表(バンガード・インベストメンツ・ジャパン)

シリーズ第一弾として「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」(愛称「楽天・バンガード・ファンド(全世界株式)」)(信託報酬<税抜>0.23%)と「楽天・全米株式インデックス・ファンド」(愛称「楽天・バンガード・ファンド(全米株式)」)(信託報酬<税抜>0.16%)が設定され、楽天証券とマネックス証券(ともに9月29日から)、SBI証券(10月20日から)で順次販売されます。インデックス投資の総本山ともいえるバンガードのETFを使ったファンド・オブ・ファンズ(FoFs)というやり方は、想像以上にポテンシャルを秘めているのでは。今後、さらなるラインアップの拡充によって投資対象として強力な商品となっていくような気がします。

通常、運用会社が新しいインデックスファンドを設定する場合、意外と初期投資が必要になります。とくに既存マザーファンドを利用できない場合は、マザーファンドから新規設定しなければならないのでコストがかかる。おまけにマザーファンドの規模が十分育つまでは運用も安定しにくいですし、実質コストも高くなりがち。最近はインデックスファンドの低コスト競争が激化していますから、せっかく信託報酬を低廉にしても実質コストが高くなってしまえば、コスト面での競争力を発揮できません。

こうした課題を解決する方法としてにわかに注目され始めたのが、超低コストな海外ETFを投資対象とするパッシブ型ファンドです。この方法の先鞭をつけたのは、たしかSBIアセットマネジメントの「EXE-i」シリーズでした。
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今回、楽天投信投資顧問がこの方法を全面的に採用したことになります。「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」は「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)」(総経費率0.11%)を、「楽天・全米株式インデックス・ファンド」は「バンガード・トータル・ストック・マーケットETF(VTI)」(経費率0.04%)を投資対象とします。バンガードのETF1銘柄だけを単純に買うというじつに単純明快だけれども効果的なやり方です。なにしろバンガードのETFは驚異的な低コストですから、楽天投信投資顧問の信託報酬にバンガードETFの総経費を加えても、極めて低コストが実現できる。おまけにバンガードETFは規模も巨大ですから運用の安定性も期待できる。

一方、今回の取り組みはバンガードにも大きなメリットがあります。もともとバンガードは日本でもETFの拡販を目指してきたわけですが、その方法で模索が続きました。ライバルであるブラックロックの「iシェアーズ」シリーズのように日本の証券取引所に上場することも考えたはず。ただ、日本の証券取引所に上場するためには上場基準をクリアする必要があります。これが意外とコストがかかる。バンガードのETFは極めて低コストな商品だけに、日本での上場コストを賄えなかっただろうことは想像に難くありません。そこで楽天投信投資顧問と組んで、FoFsを通じて日本の個人投資家にバンガードのETFを間接的に売り込む方法を採用したのでしょう。これなら余計なコストもかかりません。

おりしも日本では来年から「つみたてNISA」がスタートします。ここへの対応という点でも、普通にETFを販売するよりもFoFsによる投資信託という形態を採用した方が有利。なぜなら金額購入や積み立て購入への対応が極めて容易になるからです。まさに日本でのETF拡販を目指していたバンガードと、「つみたてNISA」に向けて強力な商品を開発したい楽天投信投資顧問の利害が一致したわけです。だから両者の発表には次のように記載されています。
『楽天・バンガード・ファンド』は、高度な分散投資を効率的に実現するバンガードETFへの投資を通じ、長期国際分散投資を通じた資産形成に資すること、また国内投資信託として良質なインデックス投資の成果を低コストでお届けすることを目的としております。このため、販売手数料ゼロ(ノーロード)を原則とし、関係者との合意の下、信託報酬についても業界最低水準を目指して設定しました。
『楽天・バンガード・ファンド』の設定に当たっては、2018年より開始されるつみたてNISA制度を強く意識しております。今後の商品ラインナップの拡充に当たっても同制度も含めた様々な投資ニーズにお応えすることを優先課題の一つとして対応して参ります。
注目点はふたつ。ひとつは「関係者との合意の下、信託報酬についても業界最低水準を目指して設定しました」ということ。バンガードのETFは極めて低コストですが、楽天投信投資顧問が取る信託報酬もものすごく頑張った水準になっている。はっきりしたのは、楽天投信投資顧問はバンガードETFを使ったFoFsで低コスト競争を戦うというという戦略です。そしてもうひとつは、商品ラインアップ拡充を「優先課題の一つ」としていること。つまり、今後もバンガードのETFを活用した低コストファンドを出すということ。バンガードのETFはほかにもたくさんありますから、これは期待できます。

バンガードETF(バンガード・インベストメンツ・ジャパン)

たとえば新興国株式ETFである「バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF(VWO)」は経費率0.14%ですから、これを使えは極めて低コストなFoFsの新興国株式インデックスファンドを設定することができます。あるいは米国小型株ETFである「バンガード・スモールキャップETF(VB)」に投資するFoFsなんかも面白い。VBは経費率がわずか0.06%ですから、こちらも極めて低コストな米国小型株インデックスファンドを作ることができるはずです。そのほかにもセクター別や地域別のETFもあります。あるいは債券ETFと組み合わせてバランス型ファンドを作ることもできる。これなんかは、意外と強力な商品となる可能性があるのでは。

もちろん海外ETFを直接購入した方が、より低コストに投資できるという指摘もあります。しかし、海外ETFの購入には信託報酬とは別に売買手数料とドルを調達するための為替手数料が必要。これが意外と無視できないコストなのです。そして、金額購入や積み立て購入が難しいという問題もあります。その点を踏まえると、信託報酬が余計に必要なFoFsでも、個人投資家にとっては十分に選択肢となりえるのでは。

こうしたことをふまえると、「楽天・バンガード・ファンド」シリーズのポテンシャルは極めて高い。今後の動向も踏まえて、注目のファンドだと言えるでしょう。

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